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2010年11月15日

人名反応の呼ばれ方 (2)

前回の続き

前回は人名反応が人によって、時代によって名前が変わるという話でした。しかしそれがどう呼ばれるかは置いておいて、一つこれまでにないものがあります。

そう、これまでの人名反応は「他人から呼ばれること」で人名反応になるのに対し、「自分で名乗った例」がないということです。

そんなもんあるかいな、とお思いのあなた。一つ例を挙げましょう。それもなんと超有名反応であるDess-Martin酸化の話です。


Daniel DessとJ. C. MartinのJACS論文が元文献なのですが、これが衝撃的。一応念を押しておきますが、この論文の著者はDess及びMartinその人です。それでは中身を紹介しましょう。その論文タイトルは・・・

A Useful 12-1-5 Triacetoxyperiodinane (the Dess-Martin Periodinane) for the Selective Oxidation of Primary or Secondary Alcohols and a Variety of Related 12-1-5 Species

Daniel B. Dess and J. C. Martin










( ゚д゚)

(つд⊂)ゴシゴシ

(;゚д゚) 

(つд⊂)ゴシゴシ  
 _, ._  
(;゚ Д゚)





>A Useful 12-1-5 Triacetoxyperiodinane (the Dess-Martin Periodinane)
>A Useful 12-1-5 Triacetoxyperiodinane (the Dess-Martin Periodinane)
>A Useful 12-1-5 Triacetoxyperiodinane (the Dess-Martin Periodinane)



工エエェェ(´д`)ェェエエ工

このひと自分でDess-Martin試薬とか言っちゃってるよおい!しかもタイトルにもかよ!
ちなみにこれだけでは終わりません。Abstractには

the "Dess-Martin Periodinane", is an extremely useful reagent for the conversion of primary and secondary alcohols to aldehydes and ketones at 25 ℃. ("Dess-Martin periodinane"は室温下での一級・二級アルコールをアルデヒド・ケトンへと変換するのに素晴らしく有用な試薬である)

本文でも

Since our initial report of the use of 13 as an oxidizing agent, a large number of chemists have found the "Dess-Martin Periodinane" to be a uniquely efficient oxidizing agent for a variety of substrates. We mention 74 papers that describe useful oxidations by 13. Several applications find 13 to be the only oxidizing agent capable of effecting the desired oxidation. (酸化剤としての化合物13(※Dess-Martin試薬のこと)の我々の最初の報告以降、多くのchemistらが"Dess-Martin periodinane"が様々な基質に対して飛びぬけて有用な酸化剤であることを見出している。化合物13による酸化について記した74の論文を挙げる(※refに全部載せてます)。いくつかの応用例では化合物13が望みの酸化反応を行える唯一の酸化剤だということを明らかにしている。)

無論論文は「自分の成果、試薬、触媒は素晴らしい!俺ってすげえ」的に書くものですが、どれだけの論文に引用されてあーだこーだいう論文は(総説を除いて)そうそうありません。しかも開発者自らが"Dess-Martin試薬"と言ってのけるところがまたw
確かにDess-Martin試薬は自画自賛したくなるほどに素晴らしい反応剤ですから別にここまで言ってもいいんですが、もしこれが微妙な感じの試薬だった場合単に痛いだけの論文ですね(ノ∀`)ノ∀`)ノ∀`)

と、ここでネタばらし(?)。ここで紹介したJACS論文は先の文章にもあった通り、最初の報告ではなくフルペーパーであり、実はDess-Martin試薬の最初の報告であるJOCの論文には"Dess-Martin periodinane"という単語は一切出てきていません。この報告後に試薬会社であるAldrichがこの酸化剤を"Dess-Martin periodinane"という商品名で売り出したことからその名が広く知られていったのであって、発表当初から「Dess-Martin periodinaneと命名する(キリッ」というわけではないのです(但し、Aldrichとの契約の際に『これ、Dess-Martin試薬っていう名前で売ってくれへんか?』的な交渉やらお願いで積極的に名前を売り出そうと考えたという可能性は十分にあります、なぜ関西弁?)。というわけでみなさんも新反応や試薬を開発した際には論文中で「オレ反応」を名乗ってみてはいかがでしょうかw 注目は集まるでしょうが、痛くなるかならないかは貴方の論文の中身次第です。(ノ∀`)

ちなみにこの本文中にもありますが、Dess-Martin試薬はAldrichで販売されて「いました」。いました、というのはDess-Martin試薬及びその前駆体であるIBXに極めて高い爆発性があり、それによる事故があったため、製造販売が中止されました。現在は少量での販売が行われており、購入することが可能ですが、大量に使う場合にはやはり自前で調製しないといけません。化学会社としてはプロセススケールでの製造はあまりにリスクが高いので行っていません。ということはつまりは研究室で我々が大量に調製しようとする際にも十分注意をしないといけないということでもあります。
posted by 樹 at 02:24| Comment(2) | TrackBack(0) | 化合物・反応お名前 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ちょっと違いますけど、Buchwald研では学生の名前つけた配位子とかよくありますよね。あんなのって教授主導なんですかね…楽しそうですけど。JohnPhosとかかっこいいんだかかっこよくないんだか。
Posted by 高分子化学屋 at 2011年07月21日 00:31
>高分子化学屋さん
その手の研究室にいたことがないので分かりませんけど研究室で命名会議とかするんでしょうかね、iPS細胞なんかはそんなんだったと聞いたような気がします。考えてみたらJohnPhosって苗字からでなく「名前」から取ってますね。その辺も気になるところ。
Posted by かんりにん at 2011年07月24日 14:10
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