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2010年10月31日

実験、爆発:やってはいけない組み合わせ

つい先日東京の大学の研究室で爆発事故があり、指が吹き飛ぶと言った事故があったようです。詳細は未だ不明ですが、化学に限らず実験は危険と隣り合わせであることをつい忘れがちです。筆者もB4の時に近くの研究室での爆発を目の当たりにしていますし、研究室での火柱も何度も見ています。こういうのは言っても分からないものなので研究室入りたて位の頃に一度体験しておくのが一番クスリになるんですが、命がかかっているのでそうも言ってられません。UCLAでのt-BuLi(空気に触れるだけで火が出る、通常溶液なのでシリンジから火が出る、いわゆる火炎放射器状態)での死亡事故は有名ですが、気をつけてもこういった不慮の事故が起こってしまう一方で、実験者による明らかなミスでの事故も多くあります。こういう場合「知らなかった」では済みません。死ぬのは本人ですし。試薬によってはやってはいけない組み合わせも存在します。そんな中から今回は一つアジドの話。
アジド化は窒素官能基の導入に重要な反応であると同時に、click chemistryに代表されるようにアジド基そのものの性質を利用した反応も多く、非常に重要な反応です。しかし、アジドは衝撃などでの爆発性が知られていることから慎重に扱わないといけない化合物群です。アジ化銀(AgN3)の調製後、できた結晶を吸引濾過後に圧搾していたら爆発、両手が吹き飛んだなどという話も聞きます。過去、アジ化ナトリウム(NaN3)をポットに入れて研究室のメンバーを病院送りにしたという事件もありましたが、本来は毒性云々よりも爆発性に対して気をつける化合物です、まあ毒性も強いんですが(この事件以降、頻繁に使う試薬であるこのアジ化ナトリウムが金庫での厳重な管理を要求されるようになったため使うのがめんどくさい・・・)。

アジド化の一般的な条件はハロゲン化した基質に対してアジドイオン(前述のNaN3など)を作用させることでSN2反応にて導入するものです。この際の溶媒は大抵がDMFです。この際の溶媒が問題で、選択を誤ると事故につながるのです。普段溶媒に対しては、純度に気を使っても、試薬との反応性に関しては案外抜けているものですが、なにせ文字通り「溶媒量」なわけですから反応できる分子も山のように用意されているのです。大概は過去の例を参考にして溶媒など含めた条件で行うのですが、どうしてもうまくいかない場合には試薬条件の他、溶媒を手当たり次第探す、ということがよくあります。しかし、このアジド化反応にて溶媒にジクロロメタン(CH2Cl2)を使うと・・・
爆発.jpg

爆発してしまうのです。なぜか。よーく考えてください。アジド化はハロゲンなどの脱離基を有した基質に対してSN2的に起こるものです。基質ばかり見ていて気付かないでしょうが、そう、溶媒であるジクロロメタン、この系内に山のように存在するヤツもアジドイオンとの求核置換反応が進行してしまうのです。
ジアジドメタン.jpg

この時生じるのがジアジドメタンという化合物。一般に窒素原子の数が多いほど爆発性が高くなる傾向があるのですがジアジドメタンの組成式はCH2N6、炭素1個に対し窒素6。まあ爆発しますわな。この反応による爆発はアジド化の反応中というよりも反応後のエバポレーターなどでの濃縮時に起こるようです。


Diazidomethane Explosion
Raymond E. Conrow and W. Dennis Dean
Organic Process Research & Development
Org. Process Res. Dev., 2008, 12 (6), pp 1285–1286



他にも色々あるのですが、今回はあまり有名でない例を挙げました。文献としては知られていても、他の危ない例が強烈過ぎてこういうのが埋もれてしまっているのが実際のところです。これを知ってもらえればと思います。

余談ですが筆者の体験したもの

・n-BuLi噴水
t-BuLiと違って火は出ない。が、強塩基なので皮膚に付くとぬるぬるする。このヌルヌルをほっておくと大変なことになるので即水で流して落とすこと。強塩基なのでヌルヌルがなかなか取れない。

・トリフルオロエタノール + NaH
トリフルオロエタノールに水素化ナトリウムを加えてアルコキシドを作ろうとしたら、ナスに入れる前に、TFEの蒸気と反応して「ポンッ」と火の玉が。

と他にも色々あるのですが(ぉ
こういう目に遭わないように是非知っておいてください。いいかえると「俺の屍を越えて行け」ということですね(何
posted by 樹 at 02:28| Comment(5) | TrackBack(0) | 事故・爆発・毒物 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
DCE溶媒、アジドを含む基質(違う基質の実験結果から考えてこの基質だとアジドが系中で脱離するかもしれない)の反応をかけようとしてて、危ないかもと考えて先生に相談したところ爆発してもナスフラが割れる程度だから大丈夫と言われてた人が居ました。
結果的には何も起こらなかったのですが、この判断は適切だったのでしょうか?
Posted by たなか at 2016年05月11日 03:26
たなかさん

「ナスフラが割れる程度」は十分に危険だと思いますが・・・、Pinnick酸化でもスカベンジャー足りないと小スケールでもそうなるし、それでケガした人知ってるし。

ただ有機アジドは求核性がアジドイオンと比べたら大幅に求核力が落ちるので溶媒選択としては特に問題ないと思います。それとアジドが丸ごと脱離するような系はアシルアジド系くらいしか思いつかないのですがどうでしょうか(β脱離型であれば脱離よりも環化が優先するはず)
Posted by かんりにん at 2016年05月12日 01:28
かんりにんさん

お返事ありがとうございます。

pinnick酸化の例は知りませんでした。勉強になります!

生成物を調べたところ、末端アジドがβ脱離によって脱離してオレフィンになっているようなものが生成しているようでした。

ただ、反応ではPOCl3を用いているのですが、発生する酸によってアジドアニオンがプロトン化されているため問題ないのかもしれません。
Posted by たなか at 2016年05月13日 01:27
たなかさん

HN3って爆発性やばいんですよ・・・試薬として大量に使うよりははるかにいいんですが、ほんとにアジドごと抜けているなら大スケールだとちょっと嫌ですね。
Posted by かんりにん at 2016年05月14日 01:05
げっ、ほんとですね...

再度構造を確認した上で、本当に脱離しているようなら条件なりルートなり変えることを提案してみます。

一人の学生の危機を救えたかもしれません。
ありがとうございます!

今後もブログ(twitterの方も)を楽しみにしています!
Posted by かんりにんさん at 2016年05月14日 22:41
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